自動運転車で事故が起きても、「AI」「乗客」「メーカー」のどれか一者へ直ちに責任が決まるわけではありません。 まず車両と機能、作動状態、走行条件、人と事業者の役割、事故時の行為を特定し、異なる制度の問いを分けます。
特に混同しやすいのが、事故直後の救護・通報、被害者への補償、行政・刑事・民事上の責任、原因調査後の求償です。これらは関係しますが、同じ判断ではありません。原因がまだ確定していなくても救護と通報は必要で、被害者への補償を先に進めた後で関係者間の負担を検討することもあります。
この記事は、2026年7月30日に確認した警察庁、国土交通省、e-Gov法令検索の一次・公式情報を基に、日本の現行制度を読むための順序を整理します。個別事故の責任や請求先を判定する法律相談ではありません。実際の事故では、警察、保険会社、運行事業者、弁護士等へ具体的な事実と資料を示して確認してください。
結論:「誰の責任」は四つの問いに分ける

「責任」という一語のまま考えると、事故直後に必要な行動と、後日行われる法的判断が混ざります。最初に次の四つへ分けます。
| 問い | 確認すること | 先に決めつけないこと |
|---|---|---|
| 事故直後の対応 | 誰が救護、消防・警察への通報、危険防止、現場対応を行うか | 最終的な過失割合や費用負担 |
| 被害者への補償 | 自賠法上の運行供用者、自賠責保険・共済、任意保険、契約等の入口 | 車両の不具合が直ちにメーカーの最終負担になること |
| 法的責任 | 行政、刑事、民事の各制度で、誰のどの行為・状態を評価するか | 事故が起きたことだけで全ての責任が同時に確定すること |
| 原因調査・求償 | 車両、システム、通信、運行、整備、道路、周囲の行動と記録 | 原因調査の結論がそのまま法的責任の結論になること |
したがって、実務上の順番は「犯人探し」からではなく、救護と通報 → 事実・記録の保全 → 補償の手続 → 制度ごとの責任判断 → 必要に応じた求償と再発防止です。
最初に自動化レベル・作動状態・走行環境条件を固定する

同じ「自動運転車」でも、人に求められる行動は異なります。商品名や広告表現ではなく、事故時点の事実を固定します。
- 車両、機能名、自動化レベル
- その機能が事故直前に作動していたか
- 走行ルート、天候、速度等が機能の走行環境条件内だったか
- 警告や引継ぎ要請が出たか、人がどう応答したか
- 人は運転者、乗客、遠隔の主任者、車内の主任者のどの立場だったか
- 車両の保有者、旅客運送を行う主体、特定自動運行実施者は誰か
| 区分 | 事故責任を読む前提 |
|---|---|
| レベル1〜2 | 運転者が運転の主体。レベル2でも前方・周囲を絶えず確認し、安全運転を続ける |
| レベル3 | 走行環境条件内ではシステムが運転するが、引継ぎ要請等に運転者が適切に対応できることが前提になる |
| レベル4 | 限定された走行環境条件内でシステムが運転を担う。運転者がいない特定自動運行では実施者・主任者の制度がある |
| レベル5 | あらゆる条件でシステムが運転を担う構想。今回参照した国土交通省の2025年自賠法報告書の検討対象外 |
レベル2は運転支援であり、警察庁も運転者が絶えず前方・周囲を監視する必要があると案内しています。一方、国土交通省の「AI時代における自動車事故報告書」は、原則として先進運転支援システムを検討対象の「自動運転車」に含めていません。レベル4を想定した制度整理を、レベル2にそのまま当てはめないことが重要です。
また、2025年の自賠法報告書は、レベル0〜4が混在する当面の時期を検討し、レベル4の自家用車は実用化されていないとして主な検討対象から外しています。「レベル4なら必ずこの主体」と一般化せず、旅客サービス等の事業形態と実際の運行支配を確認します。
事故直後は責任判断より救護・通報・記録を先にする
事故直後に、法的責任の結論を待つ必要はありません。安全を確保できる範囲で、次の順に対応します。
- 負傷者がいれば救護し、必要に応じて119番へ通報する
- 110番へ通報し、警察へ事故を報告する
- 二次事故を避け、安全な場所と車内外の案内を確認する
- 自動運転サービスの緊急連絡先・運行主体へ連絡する
- 相手方、車両、運行主体、保険に関する情報を確認する
- 時刻、場所、天候、信号、車両表示、警告、写真、目撃者等を記録する
- 利用可能なドライブレコーダー等の記録が上書きされないよう、警察や提供者へ存在を伝える
- けがが疑われる場合は、軽く見えても医療機関を受診する
国土交通省も、警察への届出、相手方と車両・保険情報の確認、目撃者の確保、ドライブレコーダーや写真、自分の記録、医師の診断を事故後の対応として案内しています。
乗客で車両を操作できない場合は、車内の非常連絡手段や係員の案内を使います。ただし、人命や火災等の緊急性があるときに、運行事業者からの返答だけを待つという意味ではありません。自分で安全にできる範囲を超える操作や、原因調査に必要な機器・記録の改変は避けます。
レベル2・3とレベル4特定自動運行では事故対応者が違う

レベル2では運転者が主体です。レベル3でも、引継ぎ要請があったとき等に運転者が直ちに適切に対応できる状態が前提になります。
日本では、レベル4に相当する運転者がいない自動運転について、道路交通法上の「特定自動運行」許可制度が2023年4月に施行されました。特定自動運行実施者は、経路、交通事故時の措置等を記した計画について都道府県公安委員会の許可を受け、計画を守り、必要な設備・体制を整え、従事者を教育します。
事故時の法定措置は、主任者がどこにいるかでも異なります。
| 立場 | 道路交通法上の事故対応の中心 |
|---|---|
| 遠隔監視場所の特定自動運行主任者 | 消防機関への通報、現場措置を行う者の派遣、事故の日時・場所等の警察への報告 |
| 車内に乗車する特定自動運行主任者 | 負傷者の救護、道路上の危険防止、事故の日時・場所等の警察への報告 |
| 特定自動運行実施者 | 許可された計画の遵守、必要な設備・主任者の配置、従事者への教育等 |
「主任者が通報する」という一文だけでは、遠隔から現場措置者を派遣する場合と、車内で自ら救護・危険防止を行う場合の差が消えます。また、これらは事故時の行動を定める道路交通法上の役割です。その役割に就いていることだけで、自賠法上の運行供用者、刑事責任、民事上の最終負担が自動的に決まるわけではありません。
被害者への補償は運行供用者と自賠責から考える
自動運転事故でも、人身被害の補償と、原因判明後の関係者間の負担を分けます。
国土交通省の2025年報告書は、自動車損害賠償保障法(自賠法)上の損害賠償責任を検討したものです。全ての行政・刑事・民事責任を一括して決めた報告書ではありません。その範囲で、レベル0〜4が混在する当面の時期にも、被害者救済のため従来の運行供用者責任を維持することが妥当だとしています。
運行供用者に当たるかは、名義だけでなく、車両を使用する権原、運行への支配、運行による利益等から判断されます。報告書が検討したレベル4の旅客サービスでは、旅客運送を行う主体が運行供用者となることが基本的に想定されていますが、具体的な事業モデルと事実関係によって確認が必要です。
自賠法3条の運行供用者が人身事故の責任を免れるには、次の三つを全て立証する必要があります。
- 自己および運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと
- 被害者または運転者以外の第三者に故意または過失があったこと
- 自動車に構造上の欠陥または機能の障害がなかったこと
この立証負担が、被害者を保護する運行供用者責任の重要な特徴です。
同報告書は、検討対象としたレベル4旅客サービスで、運行へ直接関与しない乗客は運行供用者に当たらず、目的地を選ぶことや停止要求ボタンを押せることだけでは運行支配にならないと整理しています。ただし、これは自賠法上の運行供用者該当性についての整理です。乗客の具体的な行為や、別の法律・契約上の問題まで一律に決めるものではありません。
自賠責保険・共済は、他人を死傷させた人身事故について基本的な対人賠償を確保する制度です。被害者から保険会社等へ直接請求できる仕組みもあります。一方、物損、自分のけが、限度額を超える損害等を全て補う制度ではありません。任意保険、サービス契約、民法上の損害賠償等を別に確認します。
原因調査・求償と行政・刑事・民事責任を同一視しない

事故原因を調べることと、誰にどの法的責任を負わせるかは、目的も判断基準も異なります。
| 区分 | 主な目的・確認対象 | 読み違えないための境界 |
|---|---|---|
| 原因調査・再発防止 | 車両・システム、通信、運行、整備、道路、周囲の交通、記録等から原因を分析する | 原因に関係したことが、そのまま刑事・民事責任の確定を意味しない |
| 行政上の措置 | 型式・安全基準、特定自動運行の許可・計画、事業ルール等への適合を確認する | 事故が起きたことだけで、直ちに全ての許可取消しや制裁が決まるわけではない |
| 刑事責任 | 結果、予見・回避可能性、注意義務、故意・過失、具体的行為等を個別に検討する | 安全基準への適合は考慮要素になり得るが、自動的な免責ではない |
| 民事上の被害者救済 | 自賠法上の運行供用者責任、民法その他の請求根拠、損害、因果関係等を検討する | 原因調査や行政判断と結論が常に一致するとは限らない |
| 求償・関係者間の負担 | 補償後に、保険、契約、原因、製品・運行上の問題等に基づき負担を検討する | 不具合の疑いだけでメーカー等の最終負担が自動的に決まるわけではない |
警察庁は、自動運転車の交通事故について、国土交通省および交通事故総合分析センターと連携した事故調査委員会で原因究明と再発防止を図る仕組みを案内しています。ここでの原因調査は重要ですが、それ自体が行政・刑事・民事の全ての責任を裁定するものではありません。
国土交通省の2024年報告書も、行政、刑事、民事を分けています。安全基準等に適合していた事実は責任判断で考慮され得ますが、それだけで無責任になるわけではなく、事故時の具体的事情が問題になります。
また、自賠法3条にいう「構造上の欠陥または機能の障害」は、運行供用者が免責要件を立証する場面の用語です。これを直ちに製造物責任法上の「欠陥」やメーカーの責任と同一視できません。メーカー等への求償は、取得できたデータ、原因、契約、各法令の要件に基づいて別に検討します。
乗る前と事故後に残す確認記録

利用者が責任を判定する必要はありません。ただし、運行主体と緊急連絡先を知り、自分が確認できる事実を残すことは、その後の通報、補償、原因調査に役立ちます。
| 時点 | 確認・記録すること |
|---|---|
| 利用前 | 運転者か乗客か、機能・自動化レベル、利用条件、運行主体、緊急連絡先、停止時の案内、対人・対物等の補償説明、データ取扱方針 |
| 事故・異常時 | 時刻、場所、天候、車両番号・ナンバー、作動中の機能、画面表示、警告・引継ぎ要請、非常ボタン等の操作、運行主体とのやり取り |
| 現場 | 相手方、目撃者、写真、車両位置、道路・信号、警察への届出、救急対応。安全と救護を妨げない範囲で行う |
| 事故後 | 受診記録、警察・保険・運行事業者の受付番号、説明を受けた日時と担当窓口、利用可能な記録の保存を依頼した事実 |
国土交通省の2025年報告書では、レベル3について保険会社と自動車メーカー間のデータ共有の枠組みが進められ、レベル4以上でも協力体制の構築が求められています。利用者が全データを当然に取得できるという意味ではありません。利用前に窓口とデータ取扱方針を確認し、事故時は自分から見えた表示や受けた案内を正確に残します。
現在のロボットタクシーや限定運行サービスの範囲を先に把握したい場合は、ロボットタクシーはいつから乗れる?も参照してください。
未来分岐点:救護から始め、制度ごとに責任を読む
自動運転事故では誰が何を行い、誰が補償・法的責任・最終負担を担うのか
まずは「自動運転 事故 責任」を調べる場面で、未確認の条件を一つだけ書き出してみてください。
- 自動運転事故は、自動化レベルだけでなく、機能の作動状態、走行環境条件、人と事業者の役割、具体的行為から確認する
- 事故直後は、最終責任の判断より救護、119番・110番への通報、危険防止、記録の保全を優先する
- レベル2では運転者が主体。レベル4の特定自動運行では、実施者と主任者に事故対応を含む制度上の役割がある
- 被害者への補償、行政・刑事・民事責任、原因調査、関係者間の求償は別の問いとして扱う
- 2025年の国土交通省報告書は自賠法上の論点を扱うもので、全ての責任を一括して決めたものではない
- 不具合や原因への関与だけで、メーカー等の最終負担が自動的に決まるわけではない
記事の理解を深めるために参照した、または確認先として役立つ資料です。必要に応じてリンク先の最新情報も確認してください。
- 警察庁|自動運転 参照目的:レベル2・3の運転者の役割、特定自動運行許可制度、事故調査委員会の現行案内を確認するため。
- 警察庁|特定自動運行に係る許可制度の創設について(PDF) 参照目的:特定自動運行実施者・主任者、許可、計画、事故時の措置の概要を確認するため。
- 警察庁|特定自動運行に係る道路交通法の規定(検討資料・PDF) 参照目的:遠隔の主任者と車内の主任者について、事故時の通報、派遣、救護、危険防止、警察報告の違いを確認するため。
- e-Gov法令検索|道路交通法 参照目的:交通事故時の措置と特定自動運行に関する現行法令を確認するため。
- e-Gov法令検索|自動車損害賠償保障法 参照目的:運行供用者責任、免責要件、保険金等の請求に関する現行法令を確認するため。
- 国土交通省|ロボットタクシー導入等に向けた自動運転における自賠法上の損害賠償責任に関する検討会 報告書(PDF) 参照目的:2025年4月時点の検討範囲、運行供用者責任、レベル4旅客の位置付け、求償とデータ共有を確認するため。
- 国土交通省|AI時代における自動車事故報告書(PDF) 参照目的:行政・刑事・民事責任の区別、安全基準適合の位置付け、検討対象とする自動運転車の範囲を確認するため。
- 国土交通省|自動運転ワーキンググループのとりまとめ 参照目的:事業ルール、運行管理、安全基準、事故原因究明、被害者補償が別の政策課題として検討されていることを確認するため。
- 国土交通省|自賠責保険・共済とは 参照目的:自賠責の目的、対人補償、被害者請求、任意保険との範囲の違いを確認するため。
- 国土交通省|交通事故にあったらまずどうする? 参照目的:警察への届出、相手方情報、目撃者、写真・ドライブレコーダー、受診等の事故後対応を確認するため。
事故時は人命と安全を優先し、警察、保険会社、運行事業者、必要に応じて弁護士等へ相談してください。
