「AIで仕事がなくなる」という見出しを見るたびに、自分の職種を探してしまう。何年後の話なのか、今なにをしておけばいいのかは、どこにも書いていない。
この記事は、その二つに答えます。今わかっていること、数字の読み方、誰がいつ何と予測したか、どの作業から変わるか、今できること、の順に進みます。
出どころは、2026年9月29日に実際に開いて確かめました。
AIで仕事はなくなる?今わかっていること
厚生労働省は2026年9月29日に、令和8年版の労働経済白書を公表しました。主題は、AIなどの技術革新が進む中での労働市場です。白書はこう書いています。
AI技術によって、大きな雇用の減少が生じている証左は、現時点で示されていない
数字でも確かめられます。日本の就業者数は、2025年の平均で6,828万人でした。前の年より47万人増え、5年続けて増えています。
海外の見方も近いものです。OECD(経済協力開発機構)は2026年7月の報告で、生成AIが一部の仕事を自動化し始めた可能性はあるが、データにその証拠はほとんど出ていない、と書きました。
ただし、「影響がない」という意味ではありません。
| 今わかっていること | まだ分かっていないこと |
|---|---|
| 国全体で見て、AIによる大きな雇用の減少は確認されていない | これから先も同じかどうか |
| AIは、仕事を生む面と失わせる面の両方を持ちうる | 自分で作業を進めるAI(AIエージェント)が広がったときの影響 |
| 記録、入力、定型の文書づくりは影響を受けやすいと評価されている | 影響が、人を減らす形で出るのか、作業を助ける形で出るのか |
白書も、研究の数がまだ十分ではなく、幅を持って見る必要があると書いています。
AIに仕事を奪われるのは何割?数字の読み方
「何割の仕事がなくなる」という数字をよく見かけます。元をたどると、どれも失業する人の割合ではありません。
| よく見る数字 | 誰が、いつ | 何を数えた数字か |
|---|---|---|
| 世界の4人に1人 | 国際労働機関(ILO)ほか、2025年5月 | 生成AIの影響を受けうる職業で働いている人の割合。ILOは「実際の雇用への影響ではなく上限」と説明している |
| 世界の雇用の約40%、先進国は約60% | 国際通貨基金(IMF)、2024年1月 | AIの影響を受けうる仕事の割合。先進国では、そのうち約半分は恩恵を受ける可能性があるとしている |
| 日本の労働人口の約49% | 野村総合研究所ほか、2015年12月 | 10〜20年後に、技術的には代替できる可能性がある職業で働く人の割合。発表元が「社会環境要因は考慮していない」と書いている |
| 9,200万の仕事が失われ、1億7,000万が生まれる | 世界経済フォーラム、2025年1月 | 2030年までの見通し。雇用主へのアンケートがもとで、AIだけでなく人口や経済の変化も含む |
「影響を受ける」と「なくなる」は、同じではありません。
2015年の「49%」から10年がたちました。白書は今の状況を、雇用が大規模に代替されているわけではなく、多くの職種でAIが業務の一部を補う形で使われている、とまとめています。
AIで仕事がなくなるのは何年後?誰がいつ、何と言ったか
時期の見方は、人によって大きく違います。変化が速く大きいと見る側と、ゆっくりで限られると見る側を並べます。
| 見方 | 誰が、いつ、どこで | 何と言ったか |
|---|---|---|
| 速く大きい | ダリオ・アモデイ氏(Anthropic CEO)、2025年5月の発言を2026年1月の文章で説明 | AIは今後1〜5年で、新人向けの事務系の仕事の半分を置き換えうる。今まさに置き換えが起きているという主張ではない、とも書いている |
| 速く大きい | アンディ・ジャシー氏(Amazon CEO)、2025年6月、自社のサイト | 今後数年で、AIの活用によって自社の事務系の総人員は減る見込みだ |
| 大きい(2040年) | 経済産業省、2026年3月、審議会の資料 | 2040年に、事務職は約440万人の余剰、AIやロボットを使いこなす人は約340万人の不足になる可能性がある。前提つきの推計 |
| ゆっくり | ゴールドマン・サックスの調査部門、2025年8月 | AIが今後10年で大きな雇用の減少につながるとは考えにくい。広く使われた場合に置き換わるのは、米国の労働力の6〜7% |
| ゆっくり | イェール大学の研究所、2025年10月 | ChatGPTの公開から33か月、労働市場に目立つ混乱は起きていない。職場の大きな変化は、数十年かけて進むのが普通だ |
| 今のところ確認されていない | 厚生労働省、2026年9月、労働経済白書 | AIで大きな雇用の減少が起きている証拠は、現時点で示されていない |
読むときに気をつけたい点があります。AIの会社の経営者は、AIに大きく投資している立場にいます。調査機関や研究者にも、それぞれの前提があります。どの発言も、その人の見積もりです。
時期の順に並べると、次のようになります。
2025年
2025年10月時点
確かめられている
ChatGPTの公開から33か月、米国の労働市場に目立つ混乱は起きていない
職場の大きな変化は数十年かけて進むのが普通だ、とも書いている。これからを予測する分析ではないとしている。
イェール大学 Budget Lab(2025年10月1日)報告書Evaluating the Impact of AI on the Labor Market: Current State of Affairs
2026年
2026年7月
確かめられている
事務の仕事の有効求人倍率は0.36倍。一般事務は0.29倍
ハローワークの統計。季節の調整をしていない月の数字。事務の求人は、AIが広がる前から少ない。
厚生労働省(2026年8月28日)公的機関一般職業紹介状況(令和8年7月分)
2026年9月29日
確かめられている
AIによって大きな雇用の減少が生じている証拠は、現時点で示されていない
令和8年版の労働経済白書の評価。個別には、仕事を生む面と失わせる面の両方がありうるとも書いている。
厚生労働省(2026年9月29日)公的機関令和8年版 労働経済の分析
2029年
- いま
今後数年(2025年6月から)
予測されている
AIの活用で、Amazonの事務系の総人員は減る見込み
アンディ・ジャシー氏(Amazon CEO)(2025年6月17日)本人・当事者の発表Message from CEO Andy Jassy: Some thoughts on Generative AI
2030年
2026〜2030年
予測されている
新人向けの事務系の仕事の半分が、AIに置き換わりうる(「今後1〜5年」)
2025年5月の発言を、本人が2026年1月の文章で説明した。今まさに置き換えが起きているという主張ではない、とも書いている。
ダリオ・アモデイ氏(Anthropic CEO)(2026年1月)本人・当事者の発表The Adolescence of Technology
2030年まで
予測されている
世界で9,200万の仕事が失われ、1億7,000万の仕事が生まれる
雇用主へのアンケートがもと。人数が最も減る見込みの仕事は事務と秘書。理由には、AIのほかに高齢化と経済成長の鈍りも含む。
世界経済フォーラム(2025年1月)報告書The Future of Jobs Report 2025
2035年
2035年まで
予測されている
AIが大きな雇用の減少につながるとは考えにくい
AIが広く使われた場合に置き換わるのは、米国の労働力の6〜7%と見積もっている。
ゴールドマン・サックスの調査部門(2025年8月13日)報告書How Will AI Affect the Global Workforce?
2025〜2035年ごろ
予測されている
日本の労働人口の約49%が、技術的にはAIやロボットで代替できるようになる
技術的に代替できる可能性の推計。発表元が「社会環境要因は考慮していない」と書いている。2026年の労働経済白書は、雇用が大規模に代替されているわけではないとまとめた。
野村総合研究所、オックスフォード大学の研究者(2015年12月2日)報告書日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に
2040年
2040年
予測されている
事務職は約440万人の余剰、AIやロボットを使いこなす人は約340万人の不足になる可能性
国内の投資や産業の転換が進む場合という前提つきの推計。労働経済白書は「相当の幅を持ってみることが必要」と添えている。
経済産業省(2026年3月)公的機関2040年の就業構造推計(改訂版)について
- 確かめられている
- 統計や調査で、すでに確かめられていること
- 予測されている
- 研究機関・企業のトップ・研究者などの見通し。外れることがある
どの作業から変わるか

変わるのは、職業まるごとではなく作業です。公的な機関や国際機関の資料が、作業ごとにどう書いているかを並べます。
| 作業 | 資料の評価 | 出どころ |
|---|---|---|
| 情報の記録、整理、保管 | 影響を受けやすい | ILO(2023年) |
| データ入力 | 影響を受けやすい | ILO(2025年)、世界経済フォーラム(2025年) |
| 定型の文書や表の作成、要約 | 影響を受けやすい | 労働経済白書(2026年)、ILO(2025年) |
| 記帳、伝票、請求書 | 影響を受けやすい | ILO(2023年、2025年) |
| 予定の調整、会議の記録 | AIが助けるが、人の手が多く残る | ILO(2025年)。2023年の評価は楽観的すぎたと直している |
| 審査や承認などの判断 | 人が担う | ILO(2025年)。判断、監督、説明の責任を人に残す例を挙げている |
この評価は、技術的にどこまでできそうかを見たものです。「AIに任せてよい」という判断ではありません。同じ作業でも、扱う情報の秘密の度合い、間違えたときの影響、職場のルールで任せ方は変わります。
もう一つ、見落としやすい点があります。OECDは、AIの影響を受けやすい職業と、自動化されやすい職業は別だと書いています。専門的な仕事はAIに触れる度合いが高い一方で、自動化はされにくいとされています。
AIで失業しやすいのは誰か。若い人と事務の仕事
資料が繰り返し挙げているのは、若い人と事務の仕事です。
若い人。 労働経済白書は、米国の研究を紹介しています。AIの影響を受けやすい職業で、22〜25歳の雇用が16%減ったという内容です。一方で、デンマークの研究では、はっきりした影響は確認されていません。OECDは、若い人の就職の難しさにAIが果たしている役割は今のところ限られ、証拠は割れている、と書いています。
事務の仕事。 世界経済フォーラムは、2030年までに人数が最も減る仕事として事務と秘書を挙げました。理由はAIだけではなく、高齢化や経済成長の鈍りも含まれています。
日本の数字を見ると、事務の求人はAIが広がる前から少ないことが分かります。
| 時期 | 事務の有効求人倍率 | 全体 |
|---|---|---|
| 2016〜2019年の平均 | 0.46倍 | 1.52倍 |
| 2022〜2025年の平均 | 0.44倍 | 1.27倍 |
| 2026年7月 | 0.36倍 | 1.05倍 |
有効求人倍率は、仕事を探している人1人に対して、求人が何件あるかを示す数字です。ハローワークの統計で、民間の求人サイトの求人は入っていません。上の2行は白書がまとめた期間の平均、2026年7月は季節の調整をしていない月の数字で、集計の方法が違います。大きさの目安として見てください。
白書は、AIが事務の雇用や求人を減らしたとは一概に確認できなかった、と書いています。事務の仕事を探す難しさは、AIだけでは説明できません。
AI時代に必要な能力と、価値が下がる作業
資料が挙げている「必要な力」は、特別な技術だけではありません。
| 誰が | 必要だとしている力 |
|---|---|
| 厚生労働省(労働経済白書) | 論理的に考える力、批判的に考える力、問題を解決する力、人と伝え合う力。どの仕事にも使える力 |
| 世界経済フォーラム | 分析的に考える力(雇用主の69%が重視)、立ち直る力と柔軟さ(67%) |
| OECD | 高度なAIの技術が要る人は働く人の1%未満。多くの人に要るのは、デジタルの基礎と、データを読んで使う力 |
反対に、価値が下がりやすいのは、前の表で「影響を受けやすい」とされた作業そのものの速さです。速く入力する、定型の文を書く、資料を集める。ここは編集部の整理で、資料がそう言い切っているわけではありません。
分かれ道:変化が速かったら、ゆっくりだったら
こうなったら
数年で大きく変わったら
- 記録、入力、定型の文書づくりが中心の仕事は、求人が減る
- 同じ職種の中で、任される作業が入れ替わる
- 学び直しを、働きながら短い期間でする必要が出る
ならなかったら
ゆっくり変わるなら
- AIは道具として、少しずつ仕事に入ってくる
- 人手が足りない職場では、AIが穴を埋める使われ方になる
- 急いで転職を決めた場合、早すぎたことになる
どちらに寄っているかを確かめる目印毎月の「一般職業紹介状況」で、自分の職業に近い区分の有効求人倍率を見ます。年に一度の労働経済白書で、就業者数と賃金の動きを見ます。下がり続けているか、横ばいかで、どちらに寄っているかが分かります。
どちらの道でも、自分の仕事を作業に分けておくことは役に立ちます。
今できること

- 自分の一日を、作業に分けて書き出す。 下の表を使います。影響を受けやすい作業が、一日のどれくらいを占めているかが分かります。
- 職場のルールを確かめてから、AIを小さく試す。 メールの下書きや要約など、間違えても直せる作業から始めます。
- 学び直しの制度を確かめる。 教育訓練給付金は、国が指定した講座の費用の20%から、条件を満たすと最大80%が支給されます。2025年10月からは、学び直しのために30日以上の無給の休みを取る人への給付(教育訓練休暇給付金)も始まりました。条件は人によって違うので、ハローワークで確かめてください。
| 分類 | 自分の仕事の例 |
|---|---|
| 記録する、入力する | |
| 調べる、集める | |
| 文書や表を作る | |
| 判断する、決める | |
| 人と話す、調整する |
未来分岐点:自分に残したい役割を書く
AIで仕事がなくなるかどうかは、誰にも言い切れません。決められるのは、どの作業をAIに任せて、どの役割を自分に残したいかです。
AIに任せられる作業が増えても、私は_____という役割を残したい。
答えは、途中で変わって大丈夫です。半年後に同じ問いを見直すと、自分の仕事の変わり方が見えてきます。
